吐き気と眠気とゆっくりと近づいてくる死、あるいは僕の好きなVTuberについて
文責:Aya
読者の皆様は、やらなければならないことが山と積み重なっているのに気持ち悪くて仕方がなくて、胸のあたりからこみ上げてくる吐き気に負けて寝そべったまま2時間過ごしたことはあるだろうか? あるいは、日中であろうが10時間の睡眠をとっていようが構わず襲い来る眠気に膝を屈し、起きても頭痛がするだけの寝苦しい時間を過ごしたことは? はたまた、特に理由もないのに悲しくてたまらなくて、泣き出したいのにそれさえ億劫になってしまったことは? これらは、僕の日常の風景だ。別に可哀想に思ってもらいたいわけではない。そうではなく、これらの光景は今の「僕」を語る上で欠かせないものなのだ。僕は軽度の抑鬱用の投薬治療を受けており、また過眠症(読んで字のごとく「過度に眠る病」)も患っていて、こちらの症状を抑えるためにも服薬している。吐き気は薬の副作用によるものだろう。ともかく、僕はそういう生活を送っていて、だから苦痛と退屈から目をそらすための気晴らしを常に必要としているようなものなのである。
さて、上に挙げたような出来事が多発する人生の中にある僕は、一時期からVTuberの動画・生配信を視聴するようになった。Virtual YouTuber、略してVTuber。主に大手動画配信サービスYouTube上で活動する、多種多様なアバターを用いて動画を配信するクリエイターのことである。現在は生配信を中心に活動するスタイルが主流であるが、他にも歌をメインに据えたVTuberや短めの動画を多く出すVTuberなど、さまざまな種類のものがいる。そんなVTuberに、僕は魅了されたのだ。
きっかけは確か薬袋カルテだった。知らない人の方が多いだろうから解説すると、薬袋カルテというのは3、4年ほど前(もうそんなに経つのか!)に活動していたVTuberであり、そのキャラクターに即した独特の世界観作りと動画の作り込みによってそこそこの人気を有していた。どこにでもいる鬱屈とした高校生だった僕は、当時身の回りの環境に漠然とした疎外感を抱いていたこともあり、Twitterで偶然見かけた彼女の動画に引き込まれてから貪るように彼女の動画を観始めた。徐々にYouTubeとTwitterで知見を広げた僕は、やがて様々なVTuberの活動を追いかけ始める。キズナアイ、理原ひなり、ソフィアコード、鈴原るる、因幡はねる、名取さな……。気づけば、VTuber鑑賞は僕の日課になっていた。
何故そこまでVTuberに熱中したのか。その問いに一言で答えることは難しい。それは僕が生身の人間全般に対して抱いている薄暗い嫌悪感のようなもののためかもしれないし、一種の逃避先としてVTuber鑑賞を扱っていたからかもしれない。あるいは特に理由なんてなく、単に一度染みついた習性から配信の視聴を繰り返しているだけなのかもしれない。答えは正直なところ分からないし、何ならこれ一本で別の記事を書いてもいいくらいだ。しかし、確かなことも一つある。それ、つまりVTuber鑑賞が、少なくとも僕にとっては熱中するに足るものだったということだ。生活の隙間を埋めるようにして、辛い現実から逃げるようにして観ていた生配信や動画は、確かに僕の心を癒してくれていた。
さて、前置きにかなりの紙面を割いてしまったが、以下に読者の皆様に推奨できる僕の好きなVTuberを何人か並べる。皆様にも是非、これらのVTuberの動画や配信を見ていただき、僕の味わったような感情を覚えてほしい。注意してほしい点としてこれはランキングではなく、また僕の知識が特定のグループ・配信内容を中心に限定されているために多少偏ったラインナップである。VTuber自身の簡単な紹介のあとにお薦めの配信アーカイブ(配信の内容が動画としてYouTube上にアップロードされているもの)を挙げているので、気になったVTuberがいた方は是非そちらから見ていただきたい。
1.加賀美ハヤト
ANYCOLOR株式会社の運営するVTuberグループ「にじさんじ」に所属するVTuber。端正な顔立ちと亜麻色の髪をした数少ない男性VTuberの一人であり、知見の広さと安定した面白さのトークで人気を博している。年相応(本人はこの間「30代突入配信」なるものをやっていた)の落ち着きとある種の成熟した無邪気さを兼ね備えた、VTuberには珍しく「大人の魅力」に満ちた配信者である。個人的には「楽しむ」ことを追求させたら今まで見たVTuberの中で随一とまで思っている。
☆お薦め配信アーカイブ:基本的に全ての配信が安定して面白いが、ダークソウル無印実況、Inscryption実況、ゼルダの伝説BotW実況、そしてポケモンBDSP実況あたりが筆者のお気に入りである(筆者はほぼすべての配信アーカイブを視聴したことがあるが、上に挙げたものはシリーズを周回していたりする)。
2.周央サンゴ
こちらも「にじさんじ」に所属する、桃色の髪と少し眠たげな青い眼をした女性VTuber。プロフィールによれば世怜院女学院中等部1年、演劇同好会所属とのこと。「ンゴ」の通称で親しまれており、独特のワードチョイスや好きなことの話題になると展開されるマシンガントーク、そして変幻自在に変化する声音を用いて配信の随所に差し込まれる寸劇じみた茶番が特徴。配信内容も特色のあるものが多く、「次は何をするのだろう」と楽しみになれるタイプのVTuber。「みなさま~」から始まる名乗り口上は巷で有名。
☆お薦め配信アーカイブ:実は筆者が彼女を追い始めたのは最近のことなのであまり昔の配信は知らないが、直近であればOMORI実況や毎週の定期配信(木曜日の台詞朗読や土曜日の雑談配信)がお薦めできる。また、彼女の場合は切り抜き動画も充実しているため、そちらから入るのもよいだろう。
3.アンジュ・カトリーナ
「にじさんじ」所属、赤い髪と朝焼けのような瞳をした女性VTuber。中性的なハスキーボイスとどこか親しみやすい性格、そして心地よいテンポのトークが特色。いわゆる「かわいい」VTuberではないが、「近所のちょっと抜けたところのあるお姉さん」のような魅力がある。コメントなどを通したリスナーとの応答が中心となる雑談配信を多くやっており、前述した親しみやすさもありVTuberの配信を見たことがない人でも安心して視聴できる配信者の一人。ただし、本人の嗜好もあり若干の下ネタ(とはいってもYouTube上で放送できる程度ではあるが)が挟まる場合もあるので、そのようなものが苦手な場合はNGかもしれない。最近はコラボも多くやっている。えらいぞ、アンジュ。
☆お薦め配信アーカイブ:雑談配信なら外れがないので、直近のもの、あるいは興味を惹かれたサムネイル・タイトルのものを見るといい。ジャンルで言うならホラーゲーム実況もそれなりにやっており、本人がホラゲ好きで慣れていそうな割にしっかりとしたリアクションも見られるので、そちらもお薦め。筆者はリスナーの非公式名称であるFCLの語源となったOUTLAST実況などが特に好きだった。
4.金平あめ
個人勢と呼ばれる、企業に属することなく配信などの活動を行うVTuberの一人。名前は「かねひらあめ」と読む。かわいらしい角を2本生やしピンク色の髪をした小柄な女性。自称「ゲームの鬼」であり、その言葉通りゲーム実況配信を主に行っている。視聴者との距離が近く、事あるごとに「人間さ~ん」と呼びかける(金平は鬼なので、リスナーのことは「人間さん」と呼ぶ)さまはかわいいの一言に尽きる。メンバーシップ(YouTubeのサブスクリプションのような機能)に入っていればコメントを投稿すると配信開始時に「○○さん、やっとるよ~」と呼びかけてくれもする。どちらかといえば落ち着いた雰囲気の配信者なので、声がかわいらしいこともあり、夜に誰かの声を聴きたくなったときなどに視聴すると安心できるタイプのVTuber。
☆お薦め配信アーカイブ:最近であれば逆転裁判シリーズの実況を行っているので、そちらから入るといいかもしれない。ゲーム実況ではない歌メインの配信や雑談配信などで構成される「ゆるい枠」シリーズも個人的にはお薦め。また2月25日に部屋着3Dお披露目配信が行われる予定なので、受験が終わった読者諸君は是非これを見て心を癒してほしい。あと上げている歌動画もかわいい(「好き! 雪! 本気マジック!」のカバーなどが特によい)。
5.理原ひなり
元企業所属、現在は個人勢のVTuber。らんらんとした青色の瞳に、金髪をツインテールにしてヘッドドレスとエプロンを着けた小柄な女性。名前は「ことはらひなり」と読む。本人曰く「JDガチメイド」とのこと。筆者はかれこれ3年半は彼女を追い続けている。彼女の魅力については正直正確な言葉を見つけ出せる気がしないので実際に配信を見てもらった方が早いのだが、読者の皆様もそれでは困るだろうから一応それらしいことを述べておくと、リスナーに親しげに話しかけるさまであったり興奮すると若干舌足らずになってしまう様子であったり、とにかく言動の端々がかわいくて仕方がない(明らかに筆者の色眼鏡が入っているが、これは持病のようなものなので許して欲しい)。コーヒーが好きで、定期的に「コーヒー配信」と題してハンドドリップで様々な豆のコーヒーを淹れ、それを飲みながら視聴者と雑談する配信を行っている。また、最近はガンプラにハマっているので、ガンダムシリーズを観たことがある方はそちらからも入りやすいかもしれない(筆者は早くガンダムを観て話についていけるようにしなければならない)。
☆お薦め配信アーカイブ:ゆっくりと彼女の声が聴けるため、コーヒー配信がお薦め。ゲーム実況などはあまりやらないが、その分雑談配信が多く、安定した品質の配信が望める。また、オリジナルソング「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様!」も出しているため、いくつか配信を見た後気に入ったならそちらも聴いてみるといい。