バイト降る降る

バイト降る降る

 

 

バイト降る降る

文責:吉田寮のゲバラ

 バイトとはある日突然降ってくるものである。特にここ、京都においてはその傾向が強い。現に今、私は突如降って湧いてきたバイトへと向かうため京都駅を目指しているのだ。事の発端は昨日に遡る。SNSで交通費が出て、食事、宿付き、道具貸出のスキーバイトの募集が流れてきたので、とりあえず詳細を聞いてみることにした。「基本的には一度もスキーを滑ったことのない子供にプルークボーゲンを滑れるようにスキーを教えるバイトです。」という説明があったので、多少スキーの心得もあるので受けてみるかということになった。とは言え、バイトというのは中々厄介なものでいざついてしまえばなんてことはないものでも、出勤すると決心するまでが面倒くさいのである。そのため寮を出発しなければならないギリギリの時間までスキーバイトを受けるかどうか決めあぐねていた。そろそろ出発しなければ間に合わないというとき部屋にいた友達にこのバイトの話をすると「言ってきたらええんちゃう」と言われ、ならば行くかと腹を括り今に至る。

 そんなこんなで京都駅から電車に揺られ辿り着いた駅にはバイトを紹介した人と他に2人の学生がいた。暫く駅で待つとバイト先も人が車で迎えに来てスキー場へと向かった。我々の宿はスキー場近くで、宿の隣のガレージで明日使う道具を調整をし、その日は眠った。次の日は9時過ぎからまず研修としてプロスキーヤーのレッスンを受けた。ちなみにこの人はかなりすごい人らしく、普通に個人レッスンを受けようとすると十数万くらいかかるらしいが、バイトの特権としてタダで教えてもらった。昼から生徒となる子供たちと合流し、いよいよレッスンを始めることになった。私が受け持ったのは小学6年の子供で、雑談がてらスキーの経験を聞いてみた。上述の通り事前の説明では未経験の子供を教える筈である。「スキー初めて?」「やったことある。」「どれぐらいできんの?」「パラレルの前ぐらい。」ん?話と違うではないか。あまりの状況に一瞬、パラレルと聞いて直滑降ができるぐらいかと勘違いしたほどである。とりあえず技量を確認するために、一度緩やかなゲレンデを滑らせてみた。滅茶苦茶上手い。私なんかよりよっぽど上手に滑るのだ。最早私に教えられることなど何もない。何ならこちらが教えを請いたい程である。暫く適当に滑らせたあと、責任者の上手な講師が補助で入ることになった。私は手持ち無沙汰になり、なんとなく2人の後ろに付いて行くだけとなった。こうしてバイト1日目は終わった。

 その日の夜のミーティングで「君は明日はフリーね」と言われた。事実上のクビである。暇になった私はフリーとして1日中スキーをしていた。自分のスキー技術を磨くだけでやるべきことはほとんどしていない。というか出来ることも最早ない。時々、一緒に来た他の学生が受け持つ子供の様子を申し訳程度に見るぐらいで、とにかくずっとスキーをしていた。ちなみにリフト券は会社持ちなのでこの間スキーをするのに1円もかかっていない。結果的に稼ぎはあまり良くないものの、割りのいいバイトとなった。3日目は全員オフで思う存分にスキーを楽しんだ。一度上級者向けコースに行ったもののあまりの斜面に、ブレーキをしても止まらなくなり、ついには転ぶと背中でそのまま滑るという有様でまさしく滑落していったのだった。こうして3日間のスキーバイトは終わった。果たしてバイトしたと言えるのか甚だ疑問ではあるがとにかく無事にバイトを終えたのである。

 バイトと言うと何か大変であったり、責任感が必要であったり、面接があったりというイメージがあるかもしれない。事実世の中にはそのようなバイトもある。しかしながら中には謎のバイトというものもある。というか結構ある。この文章をここまで読んでいる人の中にはバイトを始めようと思っている人もいるかもしれない。世の中に転がる謎バイトに出くわすとそれなりに色んな所で話題のネタになって面白いだろう。