吉田寮の施設

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初めてこの「異空間」を訪れたのは、京都大学に合格して間もない3月であった。吉田寮がなんかスゴイ建物だというのは入学前から聞いていたが、この寮は明らかに周囲と異なる雰囲気を醸し出し、私を圧倒した。まるでデジタル化を知らないような無数のビラで埋め尽くされた壁、なぜか懐かしいと感じてしまう現棟の匂い。少し前まではコンクリートに囲まれながら受験用の参考書を読んでばかりいた私が全ての情報を処理するにはあまりにも非現実的で衝撃的だった。入寮してから1年弱になるが今でもその全容はつかめず、発見は絶えない。さて、前置きはここで切り上げて本稿では吉田寮の数ある魅力のうち、「施設・設備とその機能」について述べていく。吉田寮には大きく分けて3つの建物がある。現棟、食堂、新棟である。

【現棟】

吉田寮現棟(以下、現棟)の歴史は長い。1913年、第三高等学校学生寄宿舎の材木を再利用して建設され、以後、その姿を残し続けている(中寮東側は1941年の火災後に再建)。

現棟宿舎は北寮、中寮、南寮、および管理棟で構成されており、E字の形をしている(図参照)。北寮・中寮・南寮は2階建ての居住空間であり、端にそれぞれトイレがついている。中寮のみ火災後の建て直しにより他2棟よりも少し短い。3棟の間には中庭があり、木々が生い茂る。南寮南には駐車場があり、車を持つ寮生がここに駐車する。

そしてこれら3棟を全てつなげているのが管理棟だ。管理棟には寮の機能が集中している。入り口付近の受付に始まり、漫画部屋、麻雀部屋、ゲーム部屋、大部屋等の機能的な部屋で構成されている。漫画部屋では四方八方を漫画に囲まれ、ふとなにか手に取って読んでみたくなる。ここから愛書が見つかることも珍しくない。また、漫画部屋は別名事務室と呼ばれていて、会議に使われることも多い。麻雀部屋はその名の通り麻雀をするための場所である。私が仮入寮した時、入寮準備として2人の寮外生が素人の私に麻雀のやり方を教えてくれたことを今でも鮮明に覚えている。ゲーム部屋には様々な時代のゲームが置かれており、時折こちらまで楽しくなるような歓声が聞こえてくる。大部屋は3つあり、旧印刷室、茶室、舎友と呼ばれている。かつては宿泊(現在は宿泊精度を休止中)や全寮的な会議で使われていた。それぞれの部屋には歴史があり独自の良さがある。気が向いたときにほかの大部屋の扉を叩き、同期入寮者と親睦を深めると共に部屋を観察してみるのも面白い。私は旧印刷室にいたが、舎友の方たちはよく遊びに来て、雑談していた。悪戯で私が寝ている横に鶏を置いた事もあった(無論私は思惑通りに驚いてしまった)。管理棟は他3棟に住む人々、および大部屋に集う人々が行き交う場所であり、寮生間の交流を生む非常に重要な役割を担っている。

【食堂】

今ある食堂は2015年に補修が完了した建物である。見た目は新しいが、建物内の柱や梁は1889年の建設当時から残っているものだ。吉田寮の中で一番長い歴史を持っているといってよいだろう。現在、食堂に給食機能はないが、そこには広々とした空間が存在しており、その時々によって会議室、ライブ会場、サークルの活動場所などに姿を変え多目的に使用されている。隣には厨房と呼ばれるキッチンがあり、そこで自炊したり、ご馳走を寮生や寮外生にふるまったりする。厨房には楽器演奏スペースもあり、練習はもちろん、外部からアーティストを呼んで演奏を聴くこともある。

【新棟】

吉田寮新棟(以下、新棟)は、2015年に建設された新しい寮である。現棟・食堂の西側に位置しているため、西寮とも呼ばれる。地上3階、地下1階建ての構成であり、現棟とは別の機能面で充実している建物だ。地上部分とは居住空間であり、地下1階には他にキッチン、シャワー室、洗濯機がある。新棟では全てのトイレがオールジェンダー仕様の個室トイレとなっている。これは新棟が作られる際、寮内や大学との議論・交渉によって設けられたものだ。性のあり方は人それぞれであるが、例えば自分の性自認と異なる性別のトイレに入ることで、違和感を抱き傷つく人もいるだろう。このオールジェンダートイレの設置は、性のあり方にかかわらず誰にとっても使いやすい環境を作ろうと努めてきた結果だ。興味が湧いたらセクハラ対策特別委員会の記事を読むといい。シャワーも同じくオールジェンダーだ。新棟はそのほかにも、バリアフリーを意識した造りになっている。段差が少ないこと、エレベーターがあること、車いす用のトイレにシャワールーム。身体に不自由のある人でもこの建物で暮らしたり、遊びに来たりしやすいように設計されている。これらは新棟の非常に良い点である。

因みに、吉田寮の一部の施設は寮外生も利用することができる。「開かれた寮」として人々を迎え入れることで、吉田寮の様子を五感を通じて知ってもらう良い機会になる。長々と吉田寮の施設と設備について書いてきたが、正直書き足りない。建物としての吉田寮の魅力がA4二枚に収まるわけがないのである。「百聞は一見に如かず」。訪れなければ知り得ない吉田寮の魅力がある。パンフレットを読んでいる貴方も、これを機に吉田寮に足を運んでみてはいかが。